地域医療の目的

 病院はこれまで病気を治すことを目的に日本全国津々浦々まで浸透してきました。どんな大きな病院も田舎の小さな病院も病気を治して帰すことを善と信じて今日まで活動してきたのです。

 私たちは医者を志したその時から患者さんが元気になってにこにこして退院していく姿を夢見生きがいを持って仕事をしていこうと考えていたはずです。学生時代や研修医時代には医学という神懸かり的な学問を見ていつかは病気を根絶できるのではないかという錯覚に陥ります。しかし現実はそんなに甘くはありませんでした。田舎で医療をして殊に高齢者ばかり見ていますとにこにこして帰っていく人たちはごくわずかです。大抵は入院する前よりも元気が無くなって今度はいつ悪くなるかわからないから今のうちに家に帰しておこうなどと考えて退院させます。ひどい時には患者も家族も家に行きたくないという中を無理矢理帰して逆恨みされてしまいます。こういったことは医者になる前は想像もつきませんでした。いかに医学が発達しても年齢という因子には無力であったわけです。

 こういうことがわかった時に私たちのとるべき態度は2つあります。負けるとわかっている戦いはせずに地域医療から撤退するか残ってそこで戦うかの選択です。残って戦ったとしても自分の欲求を満足させることは数少ないでしょう。しかし地域に派遣された医者達は大抵は嫌だと思いながらも無理な戦いを強いられている状況ではないかと思います。本当の生きがいを感じることは時々しか無いけれどもそれで満足していこうと考えざるを得ないということになると思います。

 しかし地域医療というのはそれほど満足度の低いものでしょうか。地域医療の目的を病気を治すこととした場合には上述のような結果になります。しかし地域医療にはもっと崇高な目的が設定されているはずです。それは個人の幸福とか生きがいとか社会の活力とか貢献につながるものです。

病気を治すことは素晴らしいことだと思います。でもそのことだけでは地域医療は成立しません。新たな目的作りが必要なのでないかと考えています。

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