痴呆研究会


痴呆ケアのための地域ネットワークづくり

 痴呆症は高齢者の有病率は78%と頻度の高い疾患です。例えば六ヶ所村の人口は約12,000人(高齢化率18%)で、介護保険受給者の中で186人に「痴呆の症状」が記載(1次判定の特記事項)されていました。これは10人に1人の割合になります。しかし、普段の外来診療では意識していないと痴呆症状には気づきにくいものです。長い期間診察をしてきて、ある時はっと気づくと痴呆になっている高齢者もいます。

最近、アルツハイマー型痴呆の前駆状態としてMCI (mild cognitive impairment )という概念が話題になっています。痴呆になってしまってからよりも、その前の段階で察知していれば、進行を予防したり遅らせたりすることができるかもしれません。塩酸ドネペジル(アリセプト)のように痴呆症状の進行を遅らせる治療薬を、効果的に使用することもできるようになります。

そこで、青森県内の6町村の医療・福祉従事者に参加を呼びかけ、20015月より活動を開始しました。東京都老人総合研究所精神医学研究部長・本間昭氏や同研究所・矢富直美氏から精神医学的立場からの助言・指導をいただき、10分テストによるMCIスクリーニング、患者さんの受け皿づくり、痴呆症についての啓発活動を行ってきました

 また,在宅で療養している痴呆患者のケアは,保健師から介護保険サービスへシフトし,介護保険制度を踏まえた地域ケアシステムの再構築が必要となりました.そこで,研究会には基幹型・地域型在宅介護支援センター,介護保険の居宅介護支援事業者といった福祉スタッフにも加わってもらい,同じ目標を持った者同士として活動してきました.地域に根ざした活動をしている社会福祉協議会も加わり,地域の協力体制に広がりができました.

ケアマネージャーに対しても痴呆の知識を提供し,日常業務で行う訪問調査やモニタリングで痴呆のアセスメントや観察ができるようにする,デイサービスのスタッフなどから利用者の痴呆予備群の情報を集めることができるようにする,などの体制作りも必要です.

一方,住民向けの健康教室や小学校での講演会など,啓発活動として痴呆を話題にする機会を積極的にもうけました.住民の痴呆に対する関心は高く,六ヶ所村の保健協力員が痴呆をテーマに劇を行ったところ,これまでになく住民が集まりました.痴呆に対して関心を持つようになると,診察の時に「最近近所の○○さんがおかしいですよ」といった情報が住民から入ってくることもあります.こうした地域ぐるみのケア体制を作ることが,地域保健・医療の重要な役割のひとつではないでしょうか.

痴呆のように長期間で症状が進行する疾患は,移動の少ない小さなコミュニティで患者さんを観察していくことが望ましく,地域医療の場が最も適しています.その前提として,「地域の医師が痴呆を診てくれる」ということが浸透しなければなりません.病院を中心としたシステムでは,病気の対応はできたとしても,「家族に負担や迷惑をかけたくない」とか「呆けても今まで通り地域で生活して行きたい」といった痴呆の患者さんの希望に添うことは難しい場合もあります.痴呆ケアに携わる医師には,地域の社会資源を活用しながら日常的に関わり,本人・家族そして地域の中で生活することを支えていく役割が求められているのです.

 全国で160万人の痴呆患者がいる時代.これからの痴呆ケアは一部の専門家だけで行う時代ではないでしょう.高齢者と接している医療従事者が痴呆ケアに積極的に参加していくべきではないでしょうか.その上で,保健・医療・福祉が連携しながら継続的に行う痴呆ケアシステム作りが求められているのです.

(八森 淳,松岡史彦)


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