今後の抱負―地域医療の将来



 地域医療研究会は,地域医療の理念を具体化する装置であると同時に,私たち自らが地域医療の専門医であることを認識するための“姿見の鏡”であると考えています.国内に先例のない取り組みであると自負していますが,毎日の臨床の合間をぬって行う活動は,高いモチベーションの維持なくして成り立たないものと思われます.高い理念と理想に燃えた若い医師の参入をはかることが不可欠であり,そのためには,なにより自らが高い目標を持ち地域医療の教育を充実させなければならないでしょう.地域医療研究会では教育部門が活動を開始しており,平成16年から開始された新臨床研修制度の枠内にある地域医療の研修に対応すべくプログラムを作成しています.

 医療の再編成が全国規模で始まっており青森県も例外ではありません.医師不足と自治体病院の経営悪化の結末と思われますが,県と大学が提示した対策は2次医療圏でのscrap and buildです.つまり周辺にある小病院は廃止或いは診療所化され,余剰の医師を中央の総合病院に集め専門医療に専念させるというものです.周辺の医療は中央からの各科医師が例えば毎日交替で行うことで地域医療を確保する,としています.臓器専門医療・大病院中心という従来のパラダイムでは専門医療の充実こそが医療の目的なのですから,地域の医療は価値のないもの,無駄なものと考えるのは当然なのでしょう.しかし,この方策では田舎に住む人たちの思いや不安がほとんど考慮されていません.

 地域医療は,臓器を主体とした現在の医療に対して人・家庭・地域と総合性に重点を置いた専門医療だと考えています.臓器研究の片手間ではなく,地域医療を行うための専門の医師が地域にいるのでなければ質の高いものを提供できないでしょう.そのためには地域医療の専門性とその価値をまず医学界が認め,行政とともに地域・家庭医療をめざす若い医師の働きやすい環境と教育を整備すること.地域・家庭医療の専門家の養成を目的とした教育者を養成すること.同時に地域・家庭医療が今こそ必要とされることを一般の方に理解していただかなくてはなりません.こういった点でも青森地域医療研究会の果たす役割は大きいと考えます.目を凝らせ広がる未知の領域としての地域医療へ.私たちの挑戦は続きます.

(松岡史彦)